大阪市立科学館
2015年10月29日
自販機部門の船木です。
みなさんは、大阪の中之島にある大阪市立科学館をご存知ですか? 直径26.5mという世界最大級の巨大なドームスクリーンに最新鋭のデジタル映像を映し出せるシステムを導入したプラネタリウムをメインに、200もの体験型展示やサイエンスショーを通じて、大人も子どももちょっとした科学の不思議さを楽しめる、大阪で訪れるには程よい科学館です。
大阪市立科学館(出典:ウィキペディア)
大阪市立科学館は、日本初の科学館で、初めてプラネタリウムを導入した大阪市立電気科学館を前身にした科学館です。この科学館が建っている中之島4丁目には、以前大阪大学理学部があり、後にノーベル物理学賞を受賞された湯川秀樹博士が中間子論を構想した場所だと言われており、まさに、今旬な場所ではないでしょうか。
というのも、今年2015年は、「近代光学の父」と言われるイラク出身の物理学者イブン・アル・ハイサムが光の研究をまとめた『光学の書』を出版して1,000周年に当たり、同時に、フレネルが光の回折を干渉として説明して200 周年、マクスウェルが電磁場に関する方程式を発表して150 周年、アインシュタインが一般相対性理論を提唱し始めて100 周年、さらにペンジアスとウィルソンによる宇宙マイクロ波背景輻射発見やカオによる光ファイバー技術提案の50 周年にも当たり、「国際光年」と呼ばれるにふさわしい年でした。
まさしくそんな今年、日本人ノーベル賞受賞者として23人目で、ノーベル物理学賞受賞者として11人目、さらに、素粒子物理学関連の受賞者としては7人目となった梶田隆章東大教授が発見されたのが「ニュートリノ振動」ですが、このような科学にあまり肩肘を張らずに少し気軽に触れるには、この大阪市立科学館が恰好の場所と言えるかもしれません。テーマは「宇宙とエネルギー」です。
というわけで、ここでちょっと、日本のお家芸とまで言われるようになった素粒子物理学について触れておきましょう。
物質の最小単位
私たちが知っている物質はどんどん細かくしていくと、様々な分子になり、ついには原子になります。中学や高校で習ったことで覚えていることと言えば、この原子は原子核と電子からできていて、さらに、その原子核は陽子と中性子からできているということくらいでしょうか。ちなみに、原子の種類は陽子の数でおおよそ特定できて、原子番号と呼ばれます。よく見かける元素周期表は、この原子番号の順に並べられ、その性質はおおよそ最外殻の電子軌道の種類によって分類されます。
この陽子・中性子と電子が物質を構成する粒子ですが、このうち、電子は基本的な粒子ですが、陽子・中性子はまだ基本的な粒子ではなく、クォークと呼ばれる粒子で構成されます。
…とまあ、こんな感じで、素粒子の一般雑学では説明されることが多いのですが、この素粒子とは、粒子と名付けられていても、実は単なる”粒子”ではありません。実は、粒子性と波動性という全く異なる二つの性質を同時に持った「量子」と呼ばれるものなのです。要するに、量子とは、粒であり波である存在です。簡単に言えば、私たちが普通に知っているつもりの空間がマクロ空間だとすれば、この素粒子が活躍するミクロ空間は「量子力学」と呼ばれる、マクロ空間の力学とはかなり異なる力学が成り立つ世界なのです。
素粒子の分類
さて、素粒子と聞くと、私たちはすぐに物質を直接構成する物質粒子をイメージしますが、素粒子物理学などで扱われる素粒子は物質粒子だけではありません。素粒子には大きく2種類あって、フェルミオンと呼ばれる物質粒子と、ボソンと呼ばれる力の媒介粒子からなります。
この世におけるありとあらゆる自然現象は、最終的には、四つの基本的な力(相互作用とも呼ばれます)からなります。四つの基本的な力とは、重力・電磁気力・強い力・弱い力です。重力は、天体同士が引き合ったり、天体上の物体と天体が引き合う力です。電磁気力は、電気や磁気による力で、異符号の電荷を持った物体同士が引き合う力や、同符号の電荷を持った物体同士が斥け合う力です。強い力は、クォーク同士が結合する力です。弱い力は、中性子が陽子にβ崩壊するときなどに発揮される力です、これら、重力・電磁気力・強い力・弱い力という四つの力を説明するのに、これらの力を媒介する粒子というものを介して説明されますが、この力の媒介粒子をボソンと呼ぶわけです。
具体的に素粒子を分類しておきます。まず、物質粒子であるフェルミオンには、クォークとレプトンがあり、それぞれ3つの世代(フレーバー)があります。各世代は、スピンと呼ばれる物理量で、2種類ずつに分けられます。まず、クォークは、第1世代がu(アップ)とd(ダウン)、第2世代がc(チャーム)とs(ストレンジ)、第3世代がt(トップ)とb(ボトム)です。一方、レプトンは、第1世代が電子と電子ニュートリノ、第2世代がミューオンとミュー・ニュートリノ、第3世代がタウオンとタウ・ニュートリノです。次に、力の媒介粒子であるボソンは、電磁気力を媒介する1種類の光子(フォトン)、弱い力を媒介する3種類のウィークボソン、強い力を媒介する8種類のグルーオン、さらに、質量を付加する1種類のヒッグス粒子です。以上が、標準模型あるいは標準理論と呼ばれる枠組みの中で登場する素粒子です。これ以外に、重力を媒介する粒子として、重力子(グラビトン)があると言われています。
力の統一理論
これら6種類ずつのクォークとレプトンからなるフェルミオン(物質粒子)と、13種類のボソン(力の媒介粒子)は、元々は同じ素粒子であったものが分かれたものであると考えるのが、素粒子物理学における「統一理論」と呼ばれるものです。具体的にはこれは、4つの力の統合を考える理論を意味していて、電磁気力と弱い力はワインバーグとサラムによって電弱統一理論として統合され、さらに強い力までを含めたものは大統一理論と呼ばれ、ここまでが標準理論として整備されています。これに、重力までをも含めて統合する理論は「万物の理論」とさえ言われていますが、これは標準理論の枠組みの中では収まらず、より巧妙な仕組みを要し、現在は「超弦理論」と呼ばれる理論がその最も有力な理論候補だと言われています。
ミクロの空間の不思議さ
そもそもミクロ空間がどれくらい不可思議な現場であるかと言うと、私たちがふだん慣れ親しんでいる、ごく普通の空間であるマクロ空間においては、物体が運動する力学を支えている数学というのがふつうの数である「実数」が紡ぎ出す世界観なのですが、素粒子世界の現場であるミクロ空間は、2乗したら-1になる数という現実世界では考えられない数である虚数を含んだ「複素数」が紡ぎ出す世界観を基礎としている点にあります。しかも、これだけでも普通の人はアタマを抱えるのに、素粒子の世界では、数学的にはその複素数を対にして扱い、もはや交換法則が成り立たない世界観を紡ぎ出しているのです。
ニュートリノ振動
さて、今年2015年のノーベル物理学賞は、カナダのアーサー・B・マクドナルド氏とともに、日本の梶田隆章東大教授が、素粒子であるニュートリノが質量を持つことを示す証拠であるとされる「ニュートリノ振動」を発見したことで受賞されました。
「ニュートリノ振動」という言葉を聞くと、私たちは単にニュートリノが振り子のように揺れていることなのかといった印象を受けますが、実はこれは素粒子世界においては、極端に言えば、犬が猫に化けたり、豚に化けたりするほどの大きな変化なのです。前述したように、ニュートリノと一口に言っても3種類あって、最もよく知られている電子ニュートリノ以外に、ミュー・ニュートリノとタウ・ニュートリノがあります。これらは名前に同じニュートリノと付いてはいても、それぞれ電子、ミュー粒子、タウ粒子と対をなす世代の異なる素粒子なのです。
ニュートリノ振動は、1957年にブルーノ・ポンテコルボ氏によって最初に予測されましたが、彼の理論はニュートリノとその反粒子である反ニュートリノの間で振動するというものであり、現在のように、世代間で振動する理論とは異なるものでした。世代間で振動する理論は、1962年に坂田昌一・牧二郎・中川昌美3氏によって、提唱および定式化されました。実際、太陽内部の核融合反応で発生するニュートリノ(太陽ニュートリノ)や、宇宙線が大気に衝突して発生するニュートリノ(大気ニュートリノ)を観測してみると、世代間で混合があり、その存在確率はニュートリノが伝搬していく過程で周期的に変化することがわかりました(この周期的な変化を振動と呼ぶわけです)。大気ニュートリノのニュートリノ振動は梶田博士らのグループが観測し、太陽ニュートリノのニュートリノ振動はマクドナルド博士らのグループが観測しました。
こうしたある意味小難しい宇宙やエネルギーに関する科学を、わかりやすい展示や簡単な実験、サイエンスショーなどを通して、身近なところから知ってもらおうとする展示施設が大阪の中之島にある「大阪市立科学館」です。前述のニュートリノについても、4Fの「ニュートリノをさぐる」という展示があります。
大阪市立科学館は、地下鉄四つ橋線 肥後橋駅3号出口から西へ約500メートルのところにあり、すぐお向かいには独特な外観をした国立国際美術館もあります。市立の科学館ということもあって、料金は展示場・プラネタリウムともにリーズナブルなものになっています。
というわけで、滋賀県から大阪市立科学館にお出かけになる方は、土・日・祝日は時間帯に関係なく使える、京都から大阪までのJR昼特切符が便利です。是非お近くのチケットライフの店舗にて格安のチケットをお求めください。各店のスタッフ一同、みなさんのご利用をお待ちしております。